「レトリック感覚」:レトリックとは何か、効果的な修辞の使い方1
今回の内容
文章で相手を説得するために、あるいは起伏を与えるために、人々は何を行うか。我々が日々の暮らし毎日読む文章。特に作家達は作品内の文に趣向を凝らす。今回のテーマはレトリック、修辞についてである。この記事では下記2点についてご紹介する。
- なぜレトリック、修辞が存在するのか
- レトリック、修辞にはどのような技法が存在するのか、どう使うか(次回記事)
この記事では、佐藤信夫著、『レトリック感覚』を紹介したい。西洋でのレトリックの歴史、日本での受け入れ、主要な修辞技法の分析が行われている。これを読むことで、文章に散りばめられた技法や意図に気づくことができるようになる。
あるいはご自身で使ってみるのもよいだろう。
本書の内容は、下記のページで試し読みができる。
修辞学は元々は古代ギリシャの弁論、演説、説得に関する学問分野。中世からは自由七科(リベラルアーツ)の一つとして数えられている。 それが今日までどのように続いてきたのだろうか。
佐藤信夫は日本の言語哲学者である。1932年に東京府(現東京都)で生まれた。レトリックに関する著書や、言語学に関する文献の翻訳を手掛けた。1993年没。
『レトリック感覚』は元は1978年に出版された著作である。今回読んだのは講談社学術文庫で1993年に出版された書籍である。
目次
トピック:レトリックについて
レトリックの役割
佐藤は、レトリックの役割として下記の3つを提示している。
- 説得する表現の技術
- 芸術的表現の技術
- 発見的認識の造形
1と2は平凡な表現の枠組みを破ること(作文の規則にいくらか違犯しそうな表現を求めて発生したはず)によって意表に出ようとする技術であり、発信者が受信者を驚かす戦術であると佐藤は述べる。
説得する表現の技術とは、討論で勝つための技法である。「弁論術」と訳される「レートリケー」である。意図は理屈をこねた説得である。
芸術的表現の技術とは、 魅力的な表現そのものを目的とする技術である。独特な形態によって私たちにしみじみと何かを感じさせるような言語表現、文章の起伏や落語の魅力、日常の冗談などいっさいを含む。
発見的認識の造形とは、私たちの認識をできるだけありのままに表現するための技術である。これは、事象を名前や単語のままでは表現できないときにレトリックの技術を要求するものである。
古典レトリックの五分科
ローマで集大成された古典レトリックは次の五科目に編成されると佐藤は述べる。本書では「3.修辞」が主要な対象として扱われている。
- 発想
- 配置
- 修辞(表現法)
- 記憶
- 発表
「発想」はアイディアを発見するという問題である。また、発見された主題について説得力のある理由付けを探求する。
「配置」は序論、陳述、論証、反論、結論といった弁論の展開順序を検討する。
「修辞」は文章を飾る技法である。相手の心に訴えかけるように印象的に表現することと佐藤は述べる。フィギュール、「ことばのあや」という呼び方を佐藤は多用する。
「記憶」は話ことば、演説のための暗記術である。しかしながら、理論はあまり残されていないと佐藤は述べる。
「発表」は話術や所作など舞台に属する技術と考えられる。発声法、顔の表情、姿勢、手のあげかた、足の踏み鳴らしかた、指のしぐさまでが真剣に研究されていた。
本書で多数の過去の文例と共に取り上げられるのは、「修辞」の部分である。
レトリックの歴史
佐藤は下記のようにレトリックの歴史を概説する。
古典レトリックは古代ギリシャで生まれた。ここまで述べたように、元々は説得する表現または芸術的表現の技術であった。その技術は古代ローマに引き継がれ、ヨーロッパに伝わる。中世からルネッサンス、近世へと至るころに精製されたレトリック体系を誇るようになる。
しかし、1900年代、20世紀に入った頃にレトリックは衰退する。事物を言語を駆使して客観的に記述できる能力が自然にそなわっているという確信があった。しかし、1960年代から再びレトリック研究が見直されたとしている。*1
日本へのレトリック紹介
日本へのレトリック・修辞学の紹介について、佐藤は、尾崎行雄(明治10年(1877年),『公開演説法』他:発声法、演説のための技術としてのレトリック)、菊池大麓(明治13年,文部省印行『百科全書』内の翻訳文「修辞及華文」(元はチャンブル兄弟の"Information for the Pepople"):レトリックにより芸術的=文学的方向を目指す論述)、黒岩大(明治15年,『雄弁美辞法』:説得の技法と魅力的な言語表現の技法)の業績を先史として挙げる。
そこから本格的なレトリック理論の研究としての高田早苗(明治22年,『美辞学』:全編・後編2冊の質量ともに充実した理論書)、島村滝太郎(抱月)(明治35年,『新美辞学』)、五十嵐力(明治42年,『新文章講話』)の著作を挙げている。
まとめ
説得や何らかの感情を呼び起こすのに加えて、論理のみで説明できない事象を言語化する発見的認識の造形という効果がレトリックにはある。
本記事ではレトリックが日本にもたらされた歴史について要約した。
次回以降の記事では実際の小説の中でどのようにレトリックが利用されているかを紹介する。次のテーマについて紹介する予定である。
- 直喩
- 隠喩
- 換喩
- 提喩
- 誇張法
- 列叙法
- 緩叙法