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「財布は踊る」(原田ひ香):お金との付き合い方、失敗と対策(リボ払い/FX/信用取引/奨学金etc)【感想】

今回の内容

 お金。資本主義社会においては生活と切っても切り離せない。あればできることも増えるが、なければその確保に苦労することになる。

 クレジットカードのリボ払い、消費者金融からの借金、FXの取引とネットワークビジネス奨学金の返済もあれば、せどり、積立投資、さらには不動産投資。世界はお金の話で溢れている

 

 この記事では、原田ひ香の小説『財布は踊る』を紹介する。

 ルイ・ヴィトンの長財布を購入したものの、あるトラブルからこの財布を手放さないといけないことになる。この財布はどのような因果か、お金にまつわる悩みを持つ複数の持ち主の間を巡っていくことになる。

 

 

 この記事では下記の2点を紹介する。小説のネタバレを含むため、未読の方は目次を見る前にブラウザバックを推奨する

  1. 『財布は踊る』の登場人物たちと失敗
  2. 現実社会での失敗への対策=情報収集、負債とリスクの回避orコントロール

 当ブログ筆者は、リボ払いもFXも信用取引も推奨しない。お金に関する情報収集と決断は読者諸兄でお願いしたい。

 

www.shinchosha.co.jp

 

 

 

 こちらから試し読みもできる。

www.shinchosha.co.jp

 

 

 あの棋士・優待投資家の桐谷さんも推薦している。

 

www.shinchosha.co.jp

 

  

 原田ひ香は日本の作家である。1970年に神奈川県で生まれた。2005年に「リトルプリンセス2号」でNHK創作ラジオドラマ大賞受賞。2018年発売の『三千円の使いかた』は2022年8月時点で発行部数60万部を超える。*1

 

 『財布は踊る』は2022年に新潮社から出版された著作である。

 

 

 

目次

 

『財布は踊る』の登場人物とお金に関する失敗

 本書でテーマにしているのはお金との付き合い方である。登場する人物たちは、それぞれお金に関する失敗を抱える。その困難への立ち向かい方が本書の各人物の分かれ道である。

 登場人物たちの多数を占める失敗は、借入金である。特に支払い許容量を超過しそうな負債である。基本的な対策は事前と事後の情報収集、負債とリスクの回避orコントロールだ。特に借入金の支払額、利率、期限は重要である。

 

クレジットカードのリボ払いの負債:葉月みづほ

 葉月みづほは節約家の主婦である。特売品の鶏肉やもやしを1円単位で計算し、それを活かしたメニューを考える。食料品費や日用品(こどものおむつまで含む)費込みとして渡された5万円から、毎月貯蓄を2万円やりくりするくらいである。この節約が効して、ハワイに家族3人で旅行に行くことができるほどに。ハワイで彼女は10万円の長財布を名入れで購入する。

 他方で彼女の夫、雄太は浪費家である。夫の年収450万円から小遣いは毎月5万円である。彼のクレジットカードの支払いは毎月3万円。ハワイ旅行で10万円以上使っているのに支払いは3万円。計算が合わないので支払いの詳細を聞くと怒り出す。

 なぜか。答えはリボ払いの利用3万円の内、2万8000円以上は利子の支払い。利率15%の借金の元金は228万円まで膨らんでいた。

 親族からの借り入れ、手元現金の繰り入れ、手元品の売却により、みづほは雄太のリボ払いの元金を40万円程度まで減らすことに成功して残りを分割返済とする。

対策:家族間の情報公開(収入/支出、資産/負債/自己資本)の把握、元金の返済、一括払い

 苦境における最初の対策は、現状把握である。みづほは嫌がる夫を再三の説得の上何とかクレジットカード会社の窓口に連れていくことでどうにか現状を把握することができた。

 その後の対策もおよそ適切なものだったといえる。年利15%という悪条件の借金を、親族等の借り入れという無利子のものに置き換えた。幸いにして預貯金を持ち、貸してくれる親族がいたのは幸いした。これが難しい場合、支払い年限次第だが、金利5%以内の銀行系無担保ローンへの借り換えが考えられる。(信用情報がブラックな場合は難しいかもしれない。)

 そもそもの対策としては、リボ払い設定をしない、解除する必要がある。クレジットカードの支払いは一括-二回払いの無利子とする、生活費に対しては金利がかかるような借金はしないというのが基本である。

 

消費者金融からの借り入れ、FX取引、ネットワークビジネス:水野文夫

 水野文夫はフリーターである。学費の支払いを賄えず、消費者金融からの借金をする。それを学業の傍らでは返すことができずにアルバイトを増やし、大学中退に至っている。

 文夫は一儲けしようとしてFXの商材を42万円で購入してしまう。この商材の仕組みもあくどい。商材を売った人間Aに8万円、Aに商材を売った人Bには4万円、Bに商材を売ったCには2万円、さらにCに商材を売ったDには1万円が入る。要するに、マルチ商法である。

消費者庁マルチ商法にご用心!!」より

 マルチ商法とは、商品やサービスを契約して、次は自分が買い手を探し、次々に販売組織に加入させ、ピラミッド式に拡大させていく商法です。実際は、販売組織の会員となっても販売成果を上げられず、借金が残って被害者となるだけでなく、自らが勧誘・販売することで加害者となり被害を拡大させたりと、非常に問題の起こりやすい取引形態です。*2

 このマルチ商法に関わっている知人たちは、別のコーチング教材なども売りつけてくる。この男、完全にネギを背負った鴨だと思われている。

 文夫はFX取引自体は損を出して止めている。10万円を元手に20倍のレバレッジをかけ、短時間で4万円を溶かしてから彼はFX取引をしていない。

 結果、文夫の借金は奨学金が150万円、消費者金融が130万円(一部は年利13%)、FXの情報商材のローンが40万円、もしかすると更に30万円の教材ローン。計320万円(+30万円)のローンとなった。

 文夫は借金の返済のために、将来の高収入が見込める技術職への就職と地道な返済を覚悟する。

対策:有利な借入条件の優先、詐欺への警戒、短期トレードの回避

 文夫の学生時代の資金計画の失敗から始まる。1週間のインフルエンザからバイトができずに家賃支払いがショートする。ここでより低金利の借り入れをしておく、もしくは当初より学費と家賃を見越して多めに奨学金を借りるという手が考えられた。日本学生支援機構の二種奨学金金利は延滞しないかぎりは最高でも年利3%とされる。昨今の低金利下でここ10年は1%未満が継続していた。

 次の失敗はネットワークビジネスマルチ商法に騙され、また参加したことである。基本的な対処である情報収集により、同商材がどのようなものかを調べれば引っかからずに済んだかもしれない。そして、ほどほどのリスク(期待値5%,リスク20%)で投資を始めたい場合、高額の情報商材は不要とされる。

 短期トレードも推奨しない。手数料分のマイナスサムゲームとなり、基本的には参加すればするほど期待値はマイナスとなる。そして20倍はレバレッジをかけすぎている。レバレッジは3倍以下、金額は総資金の25%以内とすべきである。文夫は少額かつ早々に撤退しているため取引本体は4万円の損で済んでいる。

 FXの信用取引が負に働いた時の悪影響は絶大である。2015年1月15日のいわゆるスイスフランショックの際には、預けていた証拠金(自己資金)をすべて失ったうえ、さらに1137人の個人で計19億4800万円の借金を負ったとされる。*3

 

信用取引仕手株、投資インフルエンサー:野田裕一郎

 野田裕一郎はFIRE(Financial Independence, Retire Early)を目指す若手会社員である。「人生は五千万を作るゲーム。」として、節約に励み、全世界株式、アメリカのS&P500、日本のTOPIXの3つのインデックスファンドを毎月積み立てていた。節約、投資アカウントをTwitterに作る。周囲のユーザーのプロフィール欄のバイブルには『金持ち父さん 貧乏父さん』が並ぶ。

 野田の節約投資生活が1年を過ぎたころ、日本マクドナルドの個別優待株投資を始める。これで短期間に10%の利益を上げる。野田はアラシ池田という投資インフルエンサーのアカウントを見つける。彼が買い推奨した銘柄は大きく上がり、売り推奨した銘柄は落ちていく。アラシ池田の推奨に従い利益を上げる中で野田は信用取引を始めた。Rという会社の株を買い、一時は4500万円に資産が達するが、アラシの売り推奨tweetの翌日には追証が発生。親族や消費者金融から借金をして証券会社に振り込むが、最終的には300万円の借金を残した強制決済となる。

 アラシ池田は相場操縦の常習者であり、tweetの前にすでに仕込みを終えているのである。R株も仕手株だったと後から野田は気づく。野田は会社内でも給与の先取りなどを工面しようとし、退職することになる。

対策:現物のみ、損切り徹底、相場操縦への警戒、航路を守れ

 本失敗を防ぐためには、現物取引に留めるべきだった。信用取引(先物、オプションを含む)は大きなリスクを伴う。現物取引では持っている金額までしか損をしないが、信用取引では大きな負債を抱えることがありうる。

 繰り返しになるが、レバレッジは3倍以下(株式信用取引はこの制約がある)、金額は総資金の25%以内とすべきである。加えて、個別銘柄の場合は個人の資産の10%を超えて保持してはリスクが高すぎると言われている。

 また、信用取引の場合は特に損切りが必要になる。借金とならないためにはルールを決め、一定額に損が達した場合は精神的な痛みはあるが売却しなければならない。

 今回、取引の決定を投資インフルエンサーからの情報に従って行っていた。健全な金融市場という観点からはよくない状況だが、個人・法人問わず不正というのはありうる。一か所からの情報を鵜呑みにしてはならない。

 インフルエンサーが相場を動かすつもりがなくても、相場は動く。あるYouTuberが金が上がると紹介したら、米国市場で金が1%しか上昇していないのに、日本の金ETFだけ3%上昇するという不健全な動きの例がある。相場は過剰に反応することがあるのを肝に銘じる必要がある。

 最後に、「航路を守れ」。投資の基本は「長期・分散・積立」である。時間、地域、業界、銘柄を分散することでリスクを抑えることができる。*4

www.jsda.or.jp

 

 ごく少数の優秀な専業トレーダーを除いて、信用取引では勝てない。株式投資で欲が出た場合、「ほとんどのトレーダーは市場平均に勝てない」「長期・分散・低コストこそが最も重要」という先人の言葉を思い出してほしい。

www.kinokuniya.co.jp

 

Twitter炎上、セミナー商法:蛇川茉美

 蛇川はお金において別の登場人物のような大きな失敗はしていない。彼女が抱えるのは、今後のお金とキャリアについての悩みである。

 彼女は「善財夏実」というペンネームでライター稼業をしている。過去に「マジックテープ財布を使っている男は結婚できないし、年収300万円以上にもなれない」とtwitterで発言して大炎上。そこにDMを送ってきた小規模出版社の編集者と同タイトルのお本を出すことになる。お財布アドバイザーとしてライターのキャリアを積んでいく。

 2時間で50万円の報酬であるセミナーや、せどりを仄めかすネット起業を利用した経済圏に関する記事などについて編集者からたしなめられる。私生活についても交際している相手との今後の関係や結婚出産後も順調な友人とを比較する。リーマンショック数年後の就職失敗や転職などの過去と現在を逡巡し、自身のキャリアと人生の今後に思い悩む。

対策:発言の見直し、仕事の取捨選択、職業倫理

 蛇川は多額の負債を抱えるような大きな失敗はしていない。Twitterの炎上はマイナスとなる人も多い中、それを活かしてむしろライターとしての知名度を向上させた。金銭的にはむしろ余裕がある。

 就職活動と転職の失敗は日本においては今後に大きく影響する。さらには周囲の経済環境にもさらされる。そこでの失敗が、職業人としても一人の個人としても納得できない現状を生んでいるのではないかと悩む。

 蛇川の苦悩は明らかな失敗というものではなく、明確な対応は難しい。一般的な解決策は公的な発信の見直しである。ライター業としてキャリアの方向性を意識した仕事を選択する、納得できないものや社会的に負の影響があるものは出さないなどが考えられる。しかし、これは取引先や運によるところも大きい。

 

奨学金返済、滞納:平原麻衣子、斉田彩

 平原麻衣子は新宿の観光案内所で契約社員として働いている。友人の斉田彩は新宿のカラオケボックスで正社員として働いている。

 月給は手取りで15万円。ボーナスはなし。二人の収入は同じ程度だ。しかし、ここから毎月3万円の奨学金を支払っているため、家計はカツカツ。貯金をする余裕がない。

 奨学金は第二種の満額12万円を借りている。結果として借入額は600万円近く。8年程度返済し、残額は300万円ほどである。滞納は1回ずつ経験がある。彼女たちは奨学金返済の裏技を教えるというサイトを見つける。

対策:猶予・減額制度の利用、あるいは学生となる、(給付/第一種併用)

 奨学金返済は猶予、減額を受けることができる。

 年間収入額300万円未満の場合:期間中の最長10年は返済猶予 

 年間収入額325万円未満の場合:半額または1/3の金額のみの返済、減額期間は最長15年

www.jasso.go.jp

www.jasso.go.jp

www.jasso.go.jp

 

 猶予や減額の措置を利用するには、奨学金の滞納があってはならないとされている。

今回の麻衣子と彩の事例の場合、手続きを利用できるかは日本学生支援機構への相談となる。

 また、そもそも12万円を借りるのに、無利子の第一種の奨学金だと6万4000円しか借りられないから全額有利子というのは不利な選択である。2006年時点は定かではないが2023年の現状では第一種と第二種を併用できる。6万4000円分は無利子、不足分の5-6万円程度のみを有利子として借りるべきである。

www.jasso.go.jp

 

 その他の手法としてはは、学費が小さい大学において籍を置いておき、返還猶予するというものがある。

 

コロナによる影響、コロナショック(投資)、不動産投資、給付金:?

 コロナショックにより、一時的に世界の株価が暴落した(コロナショック)。こちらは半年程度で株価を取り戻した。この乱高下では損得は分かれただろう。

 コロナ感染の拡大では、飲食業界や旅行業界に多大な影響が出た。他方で新型コロナ感染症特別融資*5を0%に近い低利で利用したレジデンシャル系の不動産投資家が富を蓄積した事例がある。

 

対策:多角化、無借金経営、公的支援の活用、そしてそれよりも大切なこと

 この予想外の事態に備えるには、元々の事業基盤や生活基盤を分散しておくことが考えられた。また、レバレッジを使わずに無借金経営の場合は生き残りやすかっただろう。

 他方で、コロナに関連した公的支援策を利用した事業者で大きく利益を上げ、資産を拡大したという記事も見かける。このコロナの荒波を乗り切れたかどうか、結果的には運に左右された部分が大きいに違いない。ここで述べる対策は後知恵に過ぎない。

 大切なことは、人との繋がりを大切にすること。お金との付き合い方を考えるだけでなく、なぜお金を必要とするか、人や社会まで含めたつながりの中で自身がどうするかを考えることだと感じた。

 

まとめ

 『財布は踊る』の中では現実社会と共通する多数のお金の失敗が見られた。登場人物たちの多数を占める失敗は、借入金である。特に支払い許容量を超過しそうな負債である。

 繰り返しになるが、基本的な対策は事前と事後の情報収集、負債とリスクの回避orコントロールだ。特に借入金の支払額、利率、期限は重要である。 

  • 情報を収集する
  • 生活に関する借金はしない
  • 金利が高い借り入れは避ける
  • 月々の返済額と返済期間に気を付ける
  • 詐欺に警戒する
  • 困ったら頼れる制度や人がいないかを調べる
  • 人とのつながりを大事にする

 お金は道具に過ぎない。財布だけでなく、それに応じて人まで踊らないように生き方を考えたいと感じた。

 

*1:日経XTREND,2022-08-05,「『三千円の使いかた』60万部の原田ひ香氏 「お金と人生」描く新著, https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00432/00022/,(参照2023-01-14)

*2:消費者庁マルチ商法にご用心!!」, https://www.caa.go.jp/publication/pamphlet/pdf/120712pamph.pdf

,(参照2023-01-15)

*3:MYFOREX,2022-12-25,「スイスフランショックとは?その原因と影響」, https://myforex.com/ja/news/myf22100301.html,(参照2023-01-15)

*4:時間分散については手持ちの余裕資金を投資し終えた後は、リスクは一括投資と同じである

*5:https://www.jfc.go.jp/n/finance/saftynet/pdf/covid_19_faq_jisshitsumurishika.pdf,(参照2023-01-15)

消費者物価指数(CPI):東京都で40年ぶりの上昇、何が集計対象か

今回の内容

 東京都区部の生鮮食品を除く物価が、2022年12月は昨年比で4.0%の増加となった(速報値)。あんパンが18%、都市ガスが36%の上昇などと報じられている。

 物価のニュースをよく見かけるが、それは何から一体構成されているのだろうか。また、何を比べているのだろうか。

 本記事は下記の方々のために参考になるかもしれない。

 

  1. 消費者物価指数とは何か概要を知りたい
  2. データの公表元を知りたい
  3. 消費者物価指数の内訳を知りたい

 

 本記事は、日本の消費者物価指数について記載している。

 話題になっていたのは下記の記事。*1

www.nikkei.com

 

 

 

目次

 

トピック:消費者物価指数とは

消費者物価指数の定義

 消費者物価指数(CPI)は、「全国の世帯が購入する家計に係る財及びサービスの価格等を総合した物価の変動を時系列的に測定するもの」と定義されている。なお、CPIはConsumer Price Indexの略称。*2

消費者物価指数のしくみと見方 ―2020年基準消費者物価指数―:我が国における代表的な物価指数



 

データの公表元

 参考文献に記載しているが、総務省統計局が本データの出典元である。東京と全国の2種類について毎月公表される。*3

 

 消費者物価指数(CPI)の内容と利用目的は下記のとおり。

 消費者物価指数は、全国の世帯が購入する家計に係る財及びサービスの価格等を総合した物価の変動を時系列的に測定するものです。 すなわち家計の消費構造を一定のものに固定し、これに要する費用が物価の変動によって、どう変化するかを指数値で示したもので、毎月作成しています。 指数計算に採用している各品目のウエイトは総務省統計局実施の家計調査の結果等に基づいています。 品目の価格は総務省統計局実施の小売物価統計調査によって調査された小売価格を用いています。 結果は各種経済施策や年金の改定などに利用されています。

統計局ホームページ/消費者物価指数(CPI)

 

トピック:消費者物価指数の中身

総合指数、コアCPI、コアコアCPI

 消費者物価指数には、総合指数、コアCPI、コアコアCPIと呼ばれる3種類のものがある。用途や比較対象に応じて使い分ける。

 

  • 総合指数:消費者物価指数全体
  • コアCPI:生鮮食品(生鮮魚介、生鮮野菜、生鮮果物)を除く総合指数
  • コアコアCPI:生鮮食品およびエネルギーを除く総合指数

 

 コアCPIは「総合指数」から天候に左右されて振れの大きい「生鮮食品」を除くことで、物価変動の基調をみるための指標として使われる。*4

 また、コアコアCPIは米国など海外諸国では物価の基調を把握するために同指数が利用されている。*5

 

 総務省統計局は、3つの指数を公表している。例えば、2022年11月の例は下記のとおり。*6

 (1)  総合指数は2020年を100として103.9
    前年同月比は3.8%の上昇  
 (2)  生鮮食品を除く総合指数は103.8
    前年同月比は3.7%の上昇   
 (3)  生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数は102.0
    前年同月比は2.8%の上昇  

 

www.stat.go.jp

 

2020年度基準の中身(構成)

 消費者物価指数は、項目ごとにウェイトが設定されている。各項目の価格変化にウェイトを掛け算し、合計したものが物価指数となる(ラスパイレス方式)。下記が大まかな配分の具体例である。

消費者物価指数のしくみと見方 ―2020年基準消費者物価指数―:10大費目別の前年同月比と寄与度

 指数の求め方や、細かい調査品目についても総務省統計局が公表している。*7,*8 

 

 

トピック:2022年12月の値上がり内容

2022年12月の値上がり内容

 ここまでの内容を元に記事を読んでみよう。

 都区部の総合指数は前年比4.0%上昇、コアCPIは前年比4.0%上昇(民間予測は3.8%)、コアコアCPIは前年比2.7%の上昇である。

www.stat.go.jp

 

 ロイターの記事によると、都市ガス代が36.9%の上昇。食料品も食用油の32.5%をはじめ値上げが鮮明である。

jp.reuters.com

 

 

まとめ

 以上、消費者物価指数(CPI)について簡単にまとめた。

  • 消費者物価指数(CPI)は、「全国の世帯が購入する家計に係る財及びサービスの価格等を総合した物価の変動を時系列的に測定するもの」。
  • 消費者物価指数には、総合指数、コアCPI、コアコアCPIと呼ばれる3種類のものがある。用途や比較対象に応じて使い分ける。
  • 消費者物価指数は、項目ごとにウェイトが設定されている。各項目の価格変化にウェイトを掛け算し、合計したものが物価指数となる。
  • 測定対象の調査品目は細かく指定されている。
  • 2022年12月の速報値では、都区部のCPI総合指数は前年比4.0%上昇、コアCPIは前年比4.0%上昇(民間予測は3.8%)、コアコアCPIは前年比2.7%の上昇。

 

 今後消費者物価指数(CPI)のニュースを見かけたときには、ぜひ参考にしてほしい。

*1:日本経済新聞,2023-01-10,「東京都区部の物価4.0%上昇 22年12月、40年8カ月ぶり」,https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA06CAT0W3A100C2000000/,(参照2023-01-10)

*2:総務省統計局「消費者物価指数(CPI)」,https://www.stat.go.jp/data/cpi/,(参照2023-01-10)

*3:総務省統計局「消費者物価指数(CPI)」,https://www.stat.go.jp/data/cpi/,(参照2023-01-10)

*4:野村証券,「コアCPI|証券用語解説集)」,https://www.nomura.co.jp/terms/japan/ko/A01976.html,(参照2022-01-10)

*5:野村証券,「コアコアCPI|証券用語解説集)」,

https://www.nomura.co.jp/terms/japan/ko/A02277.html,(参照2022-01-10)

*6:総務省統計局,2022-12-23,「2020年基準 消費者物価指数 全国 2022年(令和4年)11月分(2022年12月23日公表)」,https://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/tsuki/index-z.html,(参照2022-01-10)

*7:総務省統計局,「消費者物価指数のしくみと見方―2020 年基準消費者物価指数―(2021年8月公表)」,https://www.stat.go.jp/data/cpi/2020/mikata/pdf/0.pdf,(参照2022-01-10)

*8:総務省統計局「小売物価統計調査(構造編) 集計方法」,https://www.stat.go.jp/data/kouri/kouzou/shuukei.html,(参照2023-01-10)

確定申告:NPO(ユニセフなど)への寄付、寄附金控除/ふるさと納税/住宅ローン控除など、シミュレーション

今回の内容

 確定申告の時期には、所得税還付のための手続きを行う。昨今、寄付金を募る世情であり寄付金控除の仕方は見かける。しかし、ふるさと納税公益社団等への寄付金控除、住宅ローン控除などを組み合わせたときにどのように還付されるかをご存じだろうか。本記事は、以下の読者の役に立つはずである。

 

  1. 確定申告で還付される所得税や住民税の金額を計算する考え方を知りたい
  2. 国境なき医師団ユニセフ等への寄付を考えている
  3. ふるさと納税や住宅ローン控除と組み合わせた例を知りたい

 

 本記事は、慈善団体等への寄付をしたときに、どの程度の還付が得られるのかの想定を一般論として考える。

 繰り返しになるが、ご自身の個別の所得税課税額や還付額については、税理士や税務署に直接相談してほしい。なお、内容は2022年5月時点のものである。

 

 前回の記事はこちら。所得税と住民税の違い、所得控除と税額控除の違いについて解説した。

 

www.nta.go.jp

 

 

 前回も記述しているが、結論は下記となる。

  •  所得控除(寄付金控除)と税額控除(寄付金特別控除)の有利不利は所得に応じて決まる。
  •  たいていの場合は税額控除が有利(課税所得900万円/1800万円の壁)。
  •  税額控除は所得税課税額の25%まで。
  •  所得控除の対象は、年間所得の40%までの寄付金。
  •  住宅ローン控除などの税額控除が大きいと、寄付金特別控除での税額控除はあまり活かせない。
  •  上記を超えて各種団体に寄付する場合は、自己の負担となる。

 

 本記事では、寄付金控除/寄付金特別控除、ふるさと納税、住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)について紹介し、これらを組み合わせた場合の課税額と還付金についてシミュレーションを行う。

 

 

 

目次

 

 

トピック:寄附金、ふるさと納税、住宅ローンと控除

寄附金控除

 指定されたNPO政治団体等に寄付をしたとき、控除を利用できる。寄付金控除、寄付金特別控除から有利な方を選択しよう。

所得税控除部分:寄附金控除(所得控除)

 寄付をしたときに利用できる所得控除が寄付金控除である。

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財務省:その他の所得控除制度の概要(所得税):寄付金控除

 算出式は、下記の2パターンのいずれか低い方となる。

  1. 特定寄付金の合計額 - 2000円
  2. 年間所得金額 × 40% - 2000円

 

 寄付金控除以外のすべての所得控除実施後の年間所得額が100万円のA,Bの2名を例としよう。Aは50万円の寄付を、Bは2万円の寄付をしたとする。

 

 Aは認定特定非営利法人に50万円を寄付したとする。下記の計算から、Aの寄付金控除額(所得控除)は39万8000円となる。10万2000円分については所得控除を受けられない

  1.  50万円 - 2000円 = 49万8000円
  2.  (100万円 × 40%) - 2000円 = 39万8000円

 よって、所得額は 100万円 - 39万8000円 = 60万2000円となる。

 寄付金控除により、39万8000円 * 5% = 1万9900円の税金が還付される(実質寄付額48万100円)。

 

 Bは認定特定非営利法人に2万円を寄付したとする。下記の計算から、この寄付金控除額(所得控除)は1万8000円となる。2000円分については所得控除を受けられない

  1.  2万円 - 2000円 = 1万8000円
  2.  (100万円 × 40%) - 2000円 = 39万8000円

 よって、所得額は 100万円 - 1万8000円 = 98万2000円となる。

 寄付金控除により、1万8000円 * 5% = 900円の税金が還付される(実質寄付額1万9100円)。

 

 

www.nta.go.jp

 

所得税控除部分:寄附金特別控除(税額控除)

 寄付をしたときに利用できる税額控除が、寄付金特別控除である。

 下記の3パターンに分類される。

  1. 政党等寄附金特別控除
    (政党等に対する寄付金の合計額 - 2000円) × 30%
  2. 認定NPO法人等寄附金特別控除
    (認定NPO法人等に対する寄付金の合計額 - 2000円) × 40%
  3. 公益社団法人等寄附金特別控除
    (公益社団法人等に対する寄付金の合計額 - 2000円) × 40%

 

 下記のような細かいルールがある。

  • 1は所得税の25%相当額が限度
  • 2と3の合計額は所得税の25%相当額が限度
  • 100円未満の端数切捨て
  • 2000円の減額は、寄付金控除と寄付金特別控除を合わせた金額

 

 寄付金特別控除以外のすべての所得控除実施後の年間所得額が100万円のA,Bの2名を例としよう。Aは50万円の寄付を、Bは2万円の寄付をしたとする。

 

 Aは認定特定非営利法人に50万円を寄付したとする。下記の計算から、この人の寄付金特別控除額(税額控除)は1万2500円となる。Aについては所得控除(1万9900円)が有利である。

  1.  (50万円 - 2000円) × 40% = 19万9200円
  2.  (100万円 × 5%) × 25% = 1万2500円

 

 Bは認定特定非営利法人に2万円を寄付したとする。下記の計算から、この人の寄付金特別控除額(税額控除)は7200円となる。Bについては税額控除(7200円)が有利である。

  1.  (2万円 - 2000円) × 40% =  7200円
  2.  (100万円 × 5%) × 25% = 1万2500円

 

 寄付金控除に比べて、寄付金特別控除の対象となる特定寄付金の種類は少ない。寄付を実施する前に一度確認されることを推奨する。

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freee:寄附金控除と寄付金特別控除で選べるもの一覧

 

advisors-freee.jp

 

住民税控除部分:寄附金特別控除

 一部の特定寄付金について、住民税からも税額控除が可能である。しかし、こちらは国税よりも複雑である。課税地の自治体の指定の有無により、控除額が異なるのである。また、住民税の控除についての計算対象となる寄付金額は、所得の30%までである。

  1. 都道府県のみが対象に指定している場合
    通常: (寄付金の合計額 ) × 4%
    指定都市: (寄付金の合計額 ) × 2%
  2. 市区町村のみが対象に指定している場合
    通常: (寄付金の合計額 ) × 6%
    指定都市: (寄付金の合計額 ) × 8%

  3. 都道府県と市区町村の両者が対象に指定している場合
    (寄付金の合計額 ) × 10%

 

www.soumu.go.jp

 

 

 仮定の例について考える。

 住民税の課税所得額が50万円のAとBがいるとする。先ほどの寄付先団体は、都道府県のみが特定寄付金の対象として指定しているとする。

 Aは認定特定非営利法人に50万円を寄付したとする。

 下記の計算から、この人の住民税控除額(税額控除)は6000円となる。

  1.  所得の30% = (50万円) × 30% = 15万円
  2.  寄付金額 = 50万円

  上記少ない方の15万円を基準とする。

   15万円 × 4% = 6000円

 

 Bは認定特定非営利法人に2万円を寄付したとする。下記の計算から、この人の住民税控除額(税額控除)は800円となる。 

  1. 所得の30% = (50万円) × 30% = 15万円
  2.  寄付金額 = 2万円

  上記少ない方の2万円を基準とする。

   2万円 × 4% = 800円

 

ふるさと納税

 寄付金控除の中で特に知名度が高いのが、ふるさと納税である。

 ふるさと納税を利用する場合、自己負担金と所得控除分を除いて、一定の範囲内で住民税が減額される。実質課税額が自己負担金の2000円となる。

 

www.soumu.go.jp

 

所得税控除部分:ふるさと納税

 ふるさと納税利用時に所得税が控除されるのは、確定申告を利用するときである。

 地方公共団体への寄付金は特定寄付金に該当する。先の図でも記載されているが、こちらについては寄付金控除(所得控除)が認められる。

 

 算出式は、前述のとおり下記の2パターンのいずれか低い方となる。

  1. 特定寄付金の合計額 - 2000円
  2. 年間所得金額 × 40% - 2000円

 

 所得税控除額 = (ふるさと納税額-2,000円) × 所得税率となる。

 

www.nta.go.jp

 

住民税控除部分:ふるさと納税

 ふるさと納税の特徴として代表的なのが、住民税からの控除である。

 住民税からの控除(特例分)が存在するため、こちらが住民税所得割額の20%以内に収まる限りは、自己負担額は2000円となる。

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総務省ふるさと納税のしくみ「控除額の計算」

 

下記1+(2または3の少ない方)の合計が、住民税からの控除額である。

  1. 住民税からの基本控除額
    (ふるさと納税の合計額 - 2000円 ) × 10%
  2. 住民税からの特例控除額(住民税所得割額の2割を超えない場合)
    (ふるさと納税の合計額 - 2000円)×(100% - 10%(基本分) - 所得税の税率)
  3. 住民税からの特例控除額(住民税所得割額の2割を超えた場合)
    (住民税所得割額)× 20%

 

 仮定の例について考える。

 所得税の課税所得額が100万円住民税の課税所得額が105万円のAとBがいるとする。ある自治体にふるさと納税を行ったとする。(調整控除は考慮しない。)

 

 Aは50万円をふるさと納税したとする。この場合の自己負担額は42万7800円(50万円 - 1万9900円 - 5万2300円)と非常に高額

 Aの所得税還付額(所得控除・国税)は既出のとおり1万9900円。

 Aの住民税控除額(税額控除)5万2300円(3万1300円+2万1000円)となる。

 1-1. 所得の30% = (105万円) × 30% = 31万5000円

 1-2. 寄付金額 = 50万円

  上記少ない方の31万5000円を基準とする。

   (31万5000円 - 2000円) × 10% = 3万1300円

 2. (50万円 - 2000円)×(100% - 10%(基本分) -  5%)= 42万3300円

 3. (105万円 × 10%) × 20% = 2万1000円

 

 Bは2万円をふるさと納税したとする。この場合の自己負担額は2000円である。(2万円 - 900円 - 1万7100円)

 Bの所得税還付額(所得控除・国税)は既出のとおり900円。

 Bの住民税控除額(税額控除)1万7100円(1800円+1万5300円)となる。

 1-1. 所得の30% = (105万円) × 30% = 31万5000円

 1-2. 寄付金額 = 2万円

  上記少ない方の2万円を基準とする。

   (2万円 - 2000円)× 10% = 1800円

 2. (2万円 - 2000円)×(100% - 10%(基本分) -  5%)= 1万5300円

 3. (105万円 × 10%) × 20% = 2万1000円

 

ワンストップ特例制度と確定申告:どちらが得か

下記のページに特例制度の利用と確定申告の比較がある。

furu-sato.com

 

まとめると以下のとおり。

 ・控除の範囲内ならば大差はない。

 ・住宅ローン控除の枠を使いきれない場合は、ワンストップ特例が有利な場合がある(所得控除(寄付金控除)を利用しない)。

 ・住民税特例枠を使い切ってしまう場合は、確定申告が有利(所得控除(寄付金控除)を利用する)。

 

ふるさと納税の注意点

 先ほどのAの例で見たように、特例制度を利用できる限界額は住民税所得割額の2割までである。それを超えた場合は自己負担額が増加する。

 また、住民税が別の控除により軽減されている場合は、所得税と住民税の控除を受けられない場合がある(住宅ローン、外国税額控除など)。

 

住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)

所得税控除部分:住宅ローン控除(税額控除)

 購入後一定の期間、特定の金額まで住宅ローン控除として税額控除を受けることができる。

 0.7%未満の金利で借り入れている場合、借入額が控除対象額未満の場合は返済期間を長めにとることに優位性がある。優遇対象は家の種類や入居年(2023年以前、24-25年、26年以降)で異なる。

 ご自身の最適なローンの組み方については確認、計算してみてほしい。

finance.recruit.co.jp

 

過去の住宅ローン減税の減税額一覧

 住宅ローン控除での税額控除額は、購入年や入居年で異なる。概要を記載する。

住宅借入金等特別控除の過去減税額一覧

 

mponline.sbi-moneyplaza.co.jp

 

www.ht-tax.or.jp

 

 下記の辻・本郷税理士事務所の資料に令和4年度以降の控除額について詳しくまとまっている。建物の仕様と入居年によって控除上限額や期間が変化する。

辻・本郷税理士法人資料:「速報・令和4年度税制改正大綱」住宅ローン控除

(出典:辻・本郷税理士事務所「速報・令和4年度税制改正大綱」)*1

 

住民税控除部分:住宅ローン控除

 住宅ローン控除では所得税で控除しきれなかった部分を、住民税から控除することができる。2014年4月-2021年12月入居分については課税総所得金額等の7%(最高13.65万円)を控除できる。2013年-2014年3月入居分と2022年以降入居分については課税総所得金額等の5%(最高9.75万円)のみを控除できる。

 

辻・本郷税理士法人資料:「速報・令和4年度税制改正大綱」住宅ローン控除(住民税)

(出典:辻・本郷税理士事務所「速報・令和4年度税制改正大綱」)*2

 

 新制度の住宅ローン控除については、下記の三菱UFJ銀行のページにも詳しくまとまっている。

www.bk.mufg.jp

 

トピック:所得控除と税額控除(復習)

 所得税の課税額は、下記の式で決まる。

  • 課税額 = {(収入ー所得控除)× 税率 - 控除額} - 税額控除

 

 下記では、改めて所得控除と税額控除について説明する。

 

所得控除と税額控除

 所得税の課税額は、収入そのものに対してではなく、各種控除後の課税ベースに対して税率を掛けて計算する。課税ベースを減らしてくれるのが、所得控除である。

 以下、年収500万円のサラリーマンの例である。

 年収500万円の給与所得者の場合、年間の社会保険料の推定額は71万円とされる。

 ここで、給与所得控除、社会保険料控除、基礎控除、課税ベース、税額を計算する。

 ここでは、上記3点の合計額、263万円が所得控除額となる。

 課税額は、 (500万円-263万円) × 10% - 97,500円 = 13万9,500円 となる。

 税額控除があれば、ここからさらに課税額が減る。

f:id:mittlee_6791CRAdde:20220320203557p:plain

財務省:給与所得者の所得税額計算のフローチャート

www.mof.go.jp

 

 詳細は前回の記事を参照のこと。

mittlee.hatenablog.com

 

 

トピック:各種控除の組み合わせ、シミュレーション

 ここまでの制度の説明を踏まえて、還付についてのシミュレーションを行う。

 シミュレーションについては、下記の条件を示して2例実施する。

 ・年収=500万円

 ・所得

 ・寄付金額

 ・ふるさと納税

 ・年末住宅ローン借入額

 

寄附金特別控除+ふるさと納税+住宅ローン控除(所得税範囲内)

所得税の計算

所得税を計算する。計算の結果は、1万9700円が課税額。

 

ここではふるさと納税以外の寄付金については寄付金特別控除を利用する。

所得控除:

 ・寄付金控除額(ふるさと納税分)=(6万円-2000円) = 5万8000円

 

ここで課税所得を計算する。

 課税所得 = 500万円 - (144万円 + 71万円 + 48万円 +5万8000円) = 231.2万円

 所得税額(税額控除前) = 231.2万円 × 10% -9万7500円 = 13万3700円

 

ここから税額控除を適用する。

 住宅ローン控除 = 1100万円 × 1% = 11万円

 所得税額(住宅ローン控除適用後) = 13万3700円 -11万円 = 2万3700円

 

寄付金特別控除について計算する。

 1万円 × 40% = 4000円(自己負担分2000円はふるさと納税で計算済み)

 2万3700円 × 25% = 5925円 -> 5900円(100円未満切り捨て)

 

よって、寄付金特別控除の利用(4000円)が可能。

 

 所得税額(寄付金特別控除適用後) = 2万3700円 - 4000円 = 1万9700円

 

住民税の計算

続いて、住民税を計算する。計算の結果は、19万1900円が課税額。

 

所得割額を計算する。

 課税所得 = 500万円 - (144万円 + 71万円 + 43万円 ) = 242万円

 所得割 = 242万円 × 10% = 24万2000円

 

ここで調整控除が2500円あるとする。

 住民税額(所得割額:税額控除前) = 24万2000円 -2500円 = 23万9500円

 

ふるさと納税について、税額控除を計算する。

住民税控除額(ふるさと納税の税額控除)5万2200円(5800円+4万6400円)

 1-1. 所得の30% = (242万円) × 30% = 72万6000円

 1-2. 寄付金額 = 6万円

  上記少ない方6万円を基準とする。

   (6万円 - 2000円)× 10% = 5800円

 2. (6万円 - 2000円)×(100% - 10%(基本分) -  10%)= 4万6400円

 3. (242万円 × 10%) × 20% = 4万8400円

 

 認定特定非営利法人に1万円を寄付している。ユニセフ都道府県のみ特定NPO認定、市区町村では認定なしとする。下記の計算から、ふるさと納税以外の住民税控除額(税額控除)400円となる。 

  1. 所得の30% = 72万6000円
  2.  寄付金額 = 1万円

  上記少ない方の1万円を基準とする。

   1万円 × 4% = 400円

 

以上より、

住民税額(所得割額:税額控除後) = 23万9500円 - 5万2200円 - 400円 =18万6900円

また、住民税(均等割額:復興特別税1000円含む)=5000円 

 

よって、住民税総額は19万1900円

 

寄附金控除+ふるさと納税+住宅ローン控除(所得税範囲超過)

所得税の計算

所得税を計算する。計算の結果は、0円が課税額。

 

ここではふるさと納税以外の寄付金については寄付金控除を利用する。

所得控除:

 ・寄付金控除額(ふるさと納税分+ユニセフ)=(6万円 + 1万円 -2000円) = 6万8000円

 

ここで課税所得を計算する。

 課税所得 = 500万円 - (144万円 + 71万円 + 48万円 +6万8000円) = 230.2万円

 所得税額(税額控除前) = 230.2万円 × 10% -9万7500円 = 13万2700円

 

ここから税額控除を適用する。

 住宅ローン控除 = 2400万円 × 1% = 24万円

 所得税額(住宅ローン控除適用後) = 13万3700円 -24万円 = -10万6300円

 -> 所得税額(住宅ローン控除適用後) = 0円,

   住民税からの控除可能額=10万6300円 < 13万6500円

 

 

寄付金特別控除について計算する。

 1万円 × 40% = 4000円(自己負担分2000円はふるさと納税で計算済み)

 0円 × 25% = 0円

よって、寄付金特別控除の利用不可。(3200円の税負担増

 

 所得税 = 0円 - 0円 = 0円

 

住民税の計算

続いて、住民税を計算する。計算の結果は、8万5600円が課税額。

 

所得割額を計算する。

 課税所得 = 500万円 - (144万円 + 71万円 + 43万円 ) = 242万円

 所得割 = 242万円 × 10% = 24万2000円

 

ここで調整控除が2500円あるとする。

 住民税額(所得割額:税額控除前) = 24万2000円 -2500円 = 23万9500円

 

ふるさと納税について、税額控除を計算する。

住民税控除額(ふるさと納税の税額控除)5万2200円(5800円+4万6400円)

 1-1. 所得の30% = (242万円) × 30% = 72万6000円

 1-2. 寄付金額 = 6万円

  上記少ない方6万円を基準とする。

   (6万円 - 2000円)× 10% = 5800円

 2. (6万円 - 2000円)×(100% - 10%(基本分) -  10%)= 4万6400円

 3. (242万円 × 10%) × 20% = 4万8400円

 

 認定特定非営利法人に1万円を寄付している。ユニセフ都道府県のみ特定NPO認定、市区町村では認定なしとする。下記の計算から、ふるさと納税以外の住民税控除額(税額控除)400円となる。 

  1. 所得の30% = 72万6000円
  2.  寄付金額 = 1万円

  上記少ない方の1万円を基準とする。

   1万円 × 4% = 400円

 

以上より、

住民税額(所得割額:税額控除後) = 23万9500円 - 10万6300円 - 5万2200円 - 400円 = 8万600円

また、住民税(均等割額:復興特別税1000円含む)=5000円 

 

よって、住民税総額は8万5600円

 

まとめ

本記事では、寄付金控除と寄付金特別控除の違い、ふるさと納税制度、住宅ローン控除の概要、税額の計算方法についてまとめた。

  • 寄付金控除は所得控除、寄付金特別控除は税額控除
  • 寄付金特別控除の方が一般的には寄付金控除より有利
  • ふるさと納税の還付金額は他の寄付金に比較して大きく有利
  • 住宅ローン控除額が大きいと、寄付金特別控除やふるさと納税を利用できない部分が発生する。
  • 寄付金特別控除を利用できない場合は、寄付金控除で処理する。
  • 年収500万円の独身サラリーマンが控除を使わない場合、手取りは390万円(社会保険料71万円、所得税13万9500円、住民税24万4500円)。
  • 年収500万円の独身サラリーマンがふるさと納税6万円、ユニセフへの寄付1万円、2400万円の控除対象住宅ローンがある場合、手取りは413万円(社会保険料71万円、所得税0円、住民税8万6100円。寄付金7万円。)。ふるさと納税分の返礼品あり(1万8000円相当)。

 

 こどもの日にはあまり相応しくないテーマの記事である。

 控除を増やせば増やすほど、計算はややこしくなっていく。ふるさと納税以外の寄付金控除を使っている読者は少ないかもしれないが、本記事でどのような課税がされるのかをお分かりいただけたのではないだろうか。昨今の感染症や政情不安により、寄付が求められている。2022年分の確定申告では、ふるさと納税以外の寄付金控除や寄付金特別控除を申請されてはどうだろう。

 実際の税金についての相談は、読者の皆様から税理士や税務署にお問い合わせ願いたい。

 

*1:辻・本郷税理士事務所,「速報・令和4年度税制改正大綱」P32,https://www.ht-tax.or.jp/pdf/article/zeiseikaisei2022.pdf,(参照2022-05-05)

*2:辻・本郷税理士事務所,「速報・令和4年度税制改正大綱」P33,https://www.ht-tax.or.jp/pdf/article/zeiseikaisei2022.pdf,(参照2022-05-05)